訴訟を起こす前に保全のため「仮差押え・仮処分」ができる
2025/09/05
・事前に財産を調査し保全処分をしておくもし、あなたが債務者で、債権回収訴訟を起こされたとします。今、不動産等の資産があったとしても、訴訟で負け強制執行がされると、それすら持っていかれてしまいます。そんな場合に、行われがちなのが先手をとって不動産の名義を変えたり、財産を他に譲渡してしまうことです。こうしておけば、たとえ訴訟に負けても強制執行の対象にならないので被害は少なくて済みます。このような手段を封じる制度が、仮差押えや仮処分です。これらを総称して保全処分と言っています。仮差押えは、金銭債権によって強制執行をする場合に備えて、あらかじめ相手の財産(換価可能なものはすべて対象となる)を、仮に差し押さえておくものです。仮処分は、金銭債権以外の請求権の強制執行に備えて、対象となる物の現状維持を図るために行われるもの(係争物に関する仮処分)と、争いのある権利関係について暫定的に一定の地位を与えておくもの(仮の地位を定める仮処分)とがあります。このような財産の保全処分は、訴訟や民事調停の場合には当事者の申立により、家事調停・審判の場合には裁判所の判断によって行われます。 ・疎明は訴訟における証明より簡単でよいこれらの保全処分ができる要件は、①保全処分を行える権利者であること、②保全処分を行う必要性があること、③これらの事実について一応確からしいと思われる程度の証明(疎明という)ができること、です。保全処分は、訴訟などにより権利が確定するまでに一定の処分をするわけですから、万一、不当な申立であれば、相手方がそのことで損害を被るかもしれません。そのために裁判所では、損害の担保として一定額の保証金を立てさせます。仮差押えは、急を要する場合が多いので、債権者が申立書を提出すると、その日のうちに申立人と面接して、仮差押えを出すかどうかを決めます。その際に、保証金の額も定められ、申立人はこれを供託して供託書を裁判所に提出すると仮差押決定が出されます。仮処分の手続きも、仮差押えとほぼ同様です。⭐︎ポイント強制執行を空振りさせないために保全処分を。
話し合いで解決できない場合は「訴訟」を起こす
2025/09/05
・訴訟した場合の損得をまず考えてみよう売買代金の回収も交通事故の損害賠償請求も離婚請求も、最終的には訴訟で解決を図ることになります。その意味では、訴訟は伝家の宝刀ともいうべきものですから、簡単に訴訟に訴えるのは考えものです。相手にチラチラと「次は訴訟だ」という影を見せながら交渉を進めるのが、問題解決には役立つのです。訴訟になると、判決が出るまでに時間がかかります。相手が争う場合、どんなに早くても半年、平均で1年半というところです。その間、頭を悩ますことになります。また、訴訟となると、勝訴するためには法廷テクニックが物を言います。素人がやってもいいのですが、生兵法ということもあります。弁護士を頼むと、請求金額の2~3割の金を支払わなけれなりません。他に訴訟費用もかかります。弁護士との打ち合わせ、証拠の収集、証人の依頼など、手間もかかります。「訴訟経済」という言葉があります。今述べたようないろいろなマイナス要因と、勝訴した場合に得られるプラス要因とを比較考量してみて、果たして訴訟をすることが割に合うかどうかを考えて、訴訟に踏み切るかどうかを判断すべきです。・訴訟する前に相手方の財産の有無を調査すること 訴額(訴訟の目的の価額)が60万円以下で請求が金銭の場合には、少額訴訟制度なら、前述したようなデメリットを克服できます。審理は1日で終了し、その日のうちに判決が出ます。手続きも簡単ですから自分で起こせますし、また費用もそれほどかかりません。訴訟の場合には通常は、勝訴判決に基づいて、相手方の財産に対して強制執行し、競売等の代金を得ることでトラブル解決の手続きは終了します。しかし、離婚請求や建物の明渡請求のような金銭を伴わないトラブルは別ですが、債権回収訴訟や損害賠償請求事件では、たとえ訴訟に勝っても、相手に強制執行できるだけの財産がなければ、判決は絵に画いた餅にすぎないことになります。無いものからは取れないというのは、訴訟にも当てはまります。なお、離婚などの人事訴訟は、家庭裁判所に訴訟を提起します。⭐︎ポイント安易に訴訟に訴えるのは考えモノ。
地主が改築などに応じない場合は「借地非訟事件手続き」を活用
2025/09/05
・裁判所が地主に代わって許可をしてくれる制度がある借地非訟事件手続きは、借地に関する訴訟ができない種類の特定の事件について、当事者の申立について、簡易・迅速に解決を図る制度です。訴訟が当事者の主張した事実に基づいて裁判官が判断を下すのに対して、非訟事件の特色は、職権探知主義がとられ、裁判官は職権で事実の探知と証拠調べをすることができ、また不動産に関する専門知識を必要とするところから、鑑定委員会が設けられ、裁判所は必ず意見を聞くことになっている点です。通常の借地契約書には、借地人が借地上の建物を増改築したり、賃借権の譲渡や転貸をする場合には、地主の承認を要する旨が書かれています。地主がすんなり承諾してくれればいいのですが、高額な承諾料を要求したり、場合によっては契約解除をするなどと言ってくるケースも皆無ではありません。倍地非訟事件手続きは、このような場合に、裁判所が、借地権の残存期間、土地の状況、従前の経過その他一切の事情を考慮して、地主の承諾に代わる裁判所の許可を出してくれるものです。当事者間の公平を図るために必要があるときは、新たな借地期間を定めたり、借地条件を変更したり、財産上の給付(地主の承諾料)の付随処分がなされます。 地主に支払う承諾料は更地価格の10%の内外が多い借地非訟事件の対象となるのは、以下の場合です。①借地条件の変更の申立②増築、改築の申立③借地契約更新後の再築許可の申立④建物の譲渡に伴う土地賃借権譲渡・転貸許可の申立⑤競売・公売に伴う土地賃借権譲受許可の申立申立は、土地の所在する地方裁判所(当事者の合意により簡易裁判所も可)です。適法な申立であれば、申立書は相手方に送達され、相手方は答弁書を提出することになります。同時に、審問期日が指定されます。審問では、当事者の陳述を聞き、また職権で事実の探知や証拠調べをします。鑑定委員に鑑定書の提出を求めます。錯定書が出ると双方に和解勧告が出され、話し合いになることもよくあります。話し合いで解決しない場合には、付随処分を記した決定の裁判書(判決書とほぼ同じ)が出され、手続きは終了します。肝心の、財産上の給付はいくらぐらいが相場かですが、個々の事件ごとに裁判所で決められますので断定はできませんが、土地の更地価額の10%の相当額で決められるケースが多いようです。ポイント裁判所の決定に不服の場合は、告知を受けたときから2週間以内に抗告により行う。
和解内容の履行を確保したいときは「訴え提起前の和解」を活用
2025/09/05
⭐︎話し合いができたら裁判所で調書にしてもらう和解というのは、民法債権編の中で規定している13の典型的な契約の一つです。和解は、読んで字の如く、(話し合いにより)和やかに(トラブルを)解決することを言います。ちなみに、民法の和解では、「当事者がお互いに譲歩し合って、当事者の間にある紛争をやめることを約束することによって、その効力が生ずる」契約であるとしています(695条)。たとえば、友人が3年前に10万円を借りたという借用書が出てきたとしましょう。その友人に催促すると、「いや、その金は返したはずだ、その時の領収書はなくした、それに、今言われても金もないし…・」と言って返しません。そこで、では5万円を友人が払うことで解決するこれが「和解」契約です。一見、損をしたように思えますが、返済がない場合に比べると5万円は得したことになります。払うと約束したお金を確実に払ってもらえるかどうかは、相手次第です。そこで、和解の内容を簡易裁判所に申し立てて、和解調書を作成してもらいます。和解調書は、確定した判決と同様、債務名義(これによって強制執行できる)となりますので、相手が和解した内容を履行しない場合は、相手の財産に対して強制執行できます。これを訴え提起前の和解または即決和解と言っています。訴え提起前の和解については24ページも参照してください。 和解のやり直しは原則としてできない 和解の申立は、請求の趣旨と原因、紛争の実情を記載して、相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に申立書を提出して行います。申立が適法であれば、期日を定めて裁判所から呼出しが来ます。和解の内容に問題がなければ、和解条項が調書に記載され、訴え提起前の和解は終了します。和解成立後になって、和解の内容に反する事実が判明した場合、和解が無効になるかどうかは、問題です。原則は、無効を認めると和解の効力を否定することになりますので、原則とて無効にはなりません。 前記の例で言えば、10万円返したという領収書がでてきても、5万円は支払わなければならないということです。ただ、交通事故による傷害を受けた場合の示談(和解)で、示談当時は予想もしえなかった後遺症の発生については、示談が無効になったケースもあります。和解期日に当事者が出頭しないと不調とされる場合がある。
借金整理では「自己破産」や「民事(個人)再生」手続きもある
2025/09/05
個人の借金整理にはどんな方法があるか借金を警理するには、通常はその人の支払能力によって、どのような手段で整理するかを判断します。借金の整理法には、借金による破綻の軽い程度から並べると、①任意整理(示談)、②民事調停(特定調停)、③民事再生手続き、④自己破産、が考えられます。任意整理は一種の示談であり、また特定調停は前項で解説しましたので、その項を参照してください。■民事再生法は経営被粧した企業に適用される法律でしたが、平成12年11月の改正で個人も活用できるようになりました(平成13年4月の施行)。これは個人版の民事再生あるいは個人再生と言われるもので、概要は以下のとおりです。①小規模個人再生ー個人の債務者で、債務の総額が5000万円以下(別除権による回収が見込まれるものや住宅ローンは除く)の場合に活用できます。②給与所得者等再生ー前記①の「小規模個人再生の債務者」のうち、サラリーマンについて定めたものです。再生計画案による弁済の総額が、再生債務者およびその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要な費用の額を年収から控除した額に2を乗じた額(最低弁済額)以上の場合などに活用できます。 ③住宅資金貸付債権に関する特則債務者に住宅ローンがある場合に、その住宅ローンの支払期間の延長(免除はない)などをするというものです。個人の民事再生活用のメリットは、①破産しなくて済むので、破産者としての制限などのデメリットがない、②住宅などを取られることなく、再生が可能な場合もある、③保証人の負担が軽くて済む、などです。詳細は、もよりの地方裁判所の窓口にお尋ねください。■自己破産は、債務者(お金などの借主)が支払不能の状況に陥っている場合に、借金を負っている人自身が、地方裁判所に破産手開始の申立をすることによって行う借金整理の最後の手段です。破産の申立があると裁判所は申立人を審尋し、支払不能の状態にあると判断されれば、裁判所は破産手統開始の決定をします。これは官報で公告されます。つぎに、破産手織開始の決定が確定した後、破産者は免責許可の申立ができます(破産手続開始の申立時に免責許可の申立てもできる)。免責の申立後、裁判所の審尋を経て免責が許可になれば、租税などの一部の債務を除いて借金の返済を免れます。・会社の倒産などの場合の手続き会社の倒産の場合、再建型の処理方法としては、任意盤理(債権者との話し合い)、会社更生(会社更生法)、会社整理(会社法)、民事再生(民事再生法)、特定調停(特定調停法)の手続きがあり、また清算型の処理法としては、破産(破産法)、特別清算(会社法)があります。⭐︎ポイントどの程度の借金かによって、処理方法を考える。
借金の整理が必要な場合には「特定調停」が活用できる
2025/09/05
・多重債務者等の債務整理を調する制度不景気による会社倒産、リストラの波を受けて、自己破産する人達がいます。ちなみに、平成29年中の自己破産の申立ては7万3268人(法人除く)となっています。なお、貸金業者が過払金の返還請求に応じることから、弁護士や司法書士に頼んでの任意整理もあるようです。借金盤理には、いくつか方法がありますが、ここでは、まず特定調停制度を紹介しましょう。多額の債務を抱えている人の救済のために民事調停法の特例として設けられたのが、「特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律」(「特定調停」と略)で、平成12年2月17日から施行されています。いわゆる多重債務者や住宅ローンの重荷を背負って債務の支払不能に陥るおそれのある人または法人の救済のために設けられた制度です(10ページ以下参照)。この特定調停制度も、民事調停の一つですから、調停委員会で当事者が話し合いによる解決を目指すという点は同じですが、特定債務者を何とか立ち直らせる目的から、民事調停にはない特色のある手続きをいくつか設けています。その一つが、民事執行手続きのストップです。強制執行を許すと特定調停の進行に障害になると裁判所が判断した場合は、担保の提供なしに手続きの進行を停止させることができます。また、調停委員も法律の専門家ばかりではなく、税務、金融、企業の財務、資産評価の専門家などが指定されることになっています。・特定調停では公正妥当な解決を目指す特定債務者(支払不能に陥るおそれのある人)は、相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に対して、特定調停を求める申立をすることで、特定調停は開始します。申立に際して(場合によっては後で)、財産の状況を示す明細書、その他特定債務者であることを明らかにする資料および債権者の一覧表を提出することになっています。特定債務者に対する債権者や担保権者は、この特定調停に参加できます。調停の場では、参加した当事者は、調停委員会に対して、債権または債務の発生原因、内容、弁済の状況等を明らかにしなければなりません。また、調停委員会は、必要があると認めたときは、当事者や参加人に事件に関係のある文書または物件の提出を求めることができ、これに応じないときは10万円以下の過料の制裁を科すことができます。調停委員会では、特定債務者の経済的再生に役立つとの観点から、公正かつ妥当で経済的合理性を持つ内容の調停条項案を出すことができます。当事者の間で話し合いがまとまるか、裁判所の調停条項案を受け入れた場合には、調停調書が作成され、特定調停は終了することになります。⭐︎ポイント債権のカット、利息の免除、分割払いなどの条件をつけて解決する例も多い。
穏便に裁判所を活用して解決するなら「調停」の申立をする
2025/09/05
・調停は裁判所で紛争当事者が話し合って合意する紛争解決法調停は示談が当事者同士が直接トラブルの解決の交渉をするのと異なり、裁判所に調停の申立をして、調停委員会が双方の意見を聞き、仲介・あっせん等をして、双方の合意により紛争を解決するというものです。通常、調停委員会は裁判官と調停委員2名で構成されていますので、法律の知識がない人でも、弁護士に代理人として依頼しなくても適切な法的判断を下してくれるので安心です。また、調停は訴訟に比べて費用も安く、手続きも簡単ですから、比較的短時間で解決するというメリットがあります調停事件は年々増加しています。こうした背景には、当事者同士でお互いの主張ばかりしていても始まらないので、法律ではどうなっているか、調停の申立をして専門家を交えて話し合おうじゃないか、という気運もあるようです。こうして、話し合いが成立すると調停調書が作成され、調停条項を履行しなければ、強制執行をすることも可能です。・調停には、大別すると民事調停と家事調停とがある日常生活などの民事事件は、管轄の簡易裁判所に民事調停(家庭内の事件などは家庭裁判所に家事調停)の申立をすることができます。この民事調停の手続き等については、民事調停法に定められています。なお、民事調停の特例とし、借金のある人などで支払不能に陥るおそれのある人の生活再建を目的とした特定調停法があります。これについては、次項を参照してください。また、民事調停の詳細については、第4章 (17ページ以下)を参照してください。家庭内の事件は家事調停の申立を家庭裁判所にすることになります(ただし、調停ではなく、審判事件として扱われるものもあります)。調停では、裁判所の機関である調停委員会において話し合いがなされ、合意に達した場合には、調停調書が作られ、この調停条項を守らない場合には、強制執行ができることは民事調停と同様です。なお、離婚などの一般家事事件については、いきなり訴訟を起こすことはできず、訴訟を起こそうと思う場合でも、まず、調停の申立をして、調停が不成立となった場合に初めて訴訟を起こすことができます(調停前置主義)。家事調停については第5章 (1ページ以下)で解説します。調停には、この他に特殊なものとして、労働争議の場合に労働委員会の行う調停(労働関係調整法17条以など)、地方公共団体に紛争が起きた場合の自治体の紛争調停(地方自治法251条)、建設工事の請負代金について紛争が起きた場合の中央建設工事紛争審査会が行う調停(建設業法25条以下)、大気・水質汚染、日照侵害などの公害が起きた場合の公害等調整委員会や都道府県公害審査委員会が行う調停(公害紛争処理法31条以下)などがあります。⭐︎ポイント調停は、裁判所で専門家を交えて話し合う、訴訟よりも穏便な手段。
話し合いで解決できるなら「示談」を選ぶ
2025/09/05
・示談による解決の特色は「示談」というと、まず交通事故を思い浮かべる方が多いことでしょう。人身事故だけでも令和元年中には約38万件(死傷者数約46万件)も起きています。このうち、民事訴訟や調停になるのは5%以下で、後は示談(紛争解決機関のあっせん含む)により解決されています。民事上のトラブルについて、お互いに話し合い、特定の紛争について譲り合って解決するのが示談です。ただ、トラブルの内容によっては、示談の認められないケースもあります。たとえば、不倫の子を生んだ母親に対して、お金を渡す代わりに、認知請求権を放棄させるなどは、示談ができても裁判で否定されかねません。そこで、示談がまとまりそうな時は、弁護士に内容を話して問題がないか聞いてみることをお勧めします。示談の第一の特色は、当事者間にトラブル(紛争)のあることが前提です。これを裁判所の手を借りずに、トラブルとなった当事者の間の話し合いで解決するものです。難しい手続きも不要で、費用も時間も裁判ほどかからない、というメリットがあります。お互いの主張がぶつかり合うのが、トラブルです。裁判では自分の主張を裏付ける証拠や証人が必要となります。示談の第二の特色は、証拠や証人や法律などにとらわれることなく、当事者の自由な話し合いと、譲り合いで、トラブルを解決できることです。お互いに一歩も引かない、という姿勢では、示談による解決は困難です。・示談を成立させるときの注意事項は「示談」という法律用語はありません。示談の法律上の性格は、民法695条の和解に類似した契約であると言われています。和解は、紛争当事者の互譲により、その間の争いを止めることを内容とする約束を取り交わすことです。示談と和解を厳密に区別する考えもありますが、強いて区別する必要も実益もありませんので、同じことと理解してよいでしょう。示談をしたことのある方はご存知でしょうが、必ず示談書の末尾に「本件に関しては、その他のいかなる請求も放棄する」旨の一項が書かれています。これは、いったん示談してしまうと、後で新たな損害が発見された場合でも、示談のやり直しはできないということです。ですから、「本件」とは何であるかをはっきり記載しておかなければなりません。交通事故による人身事故の示談で、後遺症が発生するおそれがある場合には、その旨の記載をしておかないと、示談後に発生した損害の請求は、原則としてできません(予測不可能な場合を除く)。話し合いによって、示談がまとまった場合には、当事者が記名捺印した示談書を作成しておくことが必要です。この示談書を、公証役場で執行認諾文言のある公正証書にしておけば、万一、示談書に書かれた内容が実行されない場合、裁判で判決をもらわずに、強制執行ができます。⭐︎ポイント: 予測不可能な後遺症の場合には、示談のやり直しが認められることがある
紛争解決のための専門機関は多くある
2025/09/05
・トラブルの種類は大別すれば3つ普通に日常生活を送っている人が、法律的なトラブル(事件といいます)に巻き込まれることは、そうそうあることではありませんが、では、トラブルと全く無縁で過ごせるかというと、必ずしもそうだとは言い切れません。では、不幸にして事件に遭遇したら、どのようにして解決を目指したらいいかを考えてみましょう。1口に事件と言っても、その種類は両手両足の指を使っても数えきれないほど多くの種類があります。大きく分けると、金を盗まれた、ケガを負わされたなどの刑事事件、税金の課税額に不服など国や行政機関が相手の行政事件、それ以外の民事事件となります。刑事事件であれば、響察に通報する、または告訴するなどの手続きをとれば、後は察が犯人を逮捕し、検察官が刑事裁判を起こして、犯人が処罰されることになります。ただし、事件に伴う損害賠償請求は自分でしなければなりません。行政事件であれば、行政処分をした行政機関に対して行政不服審査手続きを行い、それでも認められなければ、裁判手続きをとることになります(いきなり訴訟を起こせる場合もあります)。一番数が多く、種類も多いのが、民事事件です。金銭貸借、契約違反、相続、離婚、売買など、いずれも民事事件です。その中でも、夫婦間の事件、親子を巡る事件、相続事件などは家事・人事事件と呼ばれ、家庭裁判所が事件を取り扱います。・事件の種類に応じた相談所選びを 以上は、原則です。事件は複雑で多岐に渡ります。たとえば、酒酔い運転で人身事故を起こした場合、禁鋼、懲役刑を言い渡される刑事処分、免許取消や免許停止などの行政処分、損害賠償を請求されるのが民事事件です。また、詐欺でだまされて契約を結んだ場合、詐欺罪として告訴することも、誰欺でだまされて結んだ契約だからと取消しをし、損害賠償の請求することもできます。あなたが巻き込まれたら、どんな種類の事件かをはっきりさせることです。その上で、どのような相談機関に相談に行けばいいかを判断することです。具体的な解決方法は、専門家の意見を聞いた上で、決めることが賢明です。事件の種類による相談機関などについては、第3章 (17ページ以下)で詳説します。⭐︎ポイント: 自分で判断するのではなく、専門家の意見も聞く。 ★相談所を大別すると法律相談所は大別すると、①裁判所や弁護士会などの司法関連機関が運営するもの、②行政機関が運営するもの、③民間が運営するものがあります(18ページ参照)。どの相談所が一番よいかについての判断基準はありませんが、それぞれ特長があり、ケース・バイ・ケースということになります。たとえば、離婚の調停手続きについては家庭裁判所の家事相談室が最適であり、また、賃金未払いなどの労働相談は、行政機関の労働相談コーナーがベターということになります(第3章参照)。どこに相談するのがよいかわからない場合は、とりあえず、法テラス (12・23ページ参照)に電話をして相談する方法もあります。
トラブルが発生したら相談所などを活用する
2025/09/05
・あなたの常識的な判断が物をいう社会生活を送っていれば、誰でも何らかのトラブルに突き当たるものです。しかし、そのトラブルのすべてが、法律上問題となる、たとえば損害賠償の対象となるトラブルであるとは限りません。「法律のことは良く知らないから、そのような判断はできないヨ」と、言われるかもしれません。法律の専門家である弁護士でも、法律の条文のすべてを知っているわけではありません。しかし、法律的な判断は、知識と経験から的確にできます。大事なことは、自分の常識から考えて不公平だ、おかしいと感じるかどうかなのです。たとえば、幼稚園児の娘が道路で大に噛まれた、マンションの上の階から漏水し家具が滅茶滅茶、雨の日にコンビニでぬれて滑る床のために足をとられて骨折などの被害に遭えば、これは損害賠償の対象となることは、誰にも分かるでしょう。しかし、美容盤形で手術をしたが、結果について損害賠償を請求しない旨の一札にハンコを押した、血統書付きの隣の犬を我が家の犬が妊娠させた、不倫で生まれた子の児童扶養手当が相手の男の認知を受けたら取り消された(行政事件)などという事例では、これが法律的に保護の対象となるかどうかの判断は困難です。・何はともあれ法律相談所へ行ってみよう生兵法は大怪我のもとーと言われます。聞きかじりの知識に基づく判断、うろ覚えによる判断、自分勝手な判断は、危険です。特に財産に関する素人の判断は、一歩間違うと大きな損害を被る羽目に陥りかねません。よく聞く話ですが、消滅時効という制度があります。債権者でも権利の行使を10年間怠ると権利は消滅します。債権者は時効が近づいたら、内容証明郵便で催促すれば時効の完成が6か月間酒予されます。ここまでは、知っている人は多いのです。中断された期間に支払いを受けられないまま、また時効期間が来ます。また、内容証明を出せばよい、と思っている人がいます。内容証明による延期は1回限り、延期の期間中に訴訟を起こすなどの法的手続きを取らないと時効は完成してしまいます。中途半端の知識は、このように困るのです。とにかくトラブルに遭遇したら、そして何かおかしいと思ったら、そのままにせず、法律相談をしてみることです。各都道府県や市町村でも、法律相談所を開設しています(弁護士等専門家が相談に応じています)。また、各地の弁護士会の法律相談センターでも法律相談を行っています。こんな相談をしたら、笑われるのではなどの心配は無用です。相談を受けた弁護士には守秘義務がありますから。⭐︎ポイント 面倒がって放っておくと大事件になることも。とにかく相談してから対策を立てる。
あなたのトラブルに最適な解決方法を選ぶのがベスト
2025/09/05
『トラブルの起こらない世界はない「パンドラの箱」一。人間の世界に下りていくことになったパンドラに持たせた箱には、ゼウスがすべての悪と災いを封じ込めていたが、パンドラが好奇心から箱を開けたために、人の世にはすべての罪悪や災いがもたらされたというのがギリシャ神話です。このようなエピソードを持ち出すまでもなく、毎日の新聞やテレビで報道されているように、目を背けたくなるような事件や驚くようなトラブルが後を絶ちません。これだけ数多くの事件やトラブルの起きる社会ですから、自分はトラブルとは無縁だというわけにはいきません。・最終的な解決は裁判手続きだがわが国は法治国家ですから、トラブルの解決は、法律に定められた基準・方法によって解決を図るというのがスタンダードな解決法です。すなわち、悪質商法、自己破産、相続、売買などのような民事トラブルについては、民事訴訟法に基づいて民事訴訟を起こし、判決をもらい、判決に基づいて強制執行をして、最終的な解決を図ります。また、ストーカー、家庭内暴力、窃盗、詐欺などの刑事事件については、刑事訴訟法に基づいて、警察または検察に告訴するなどして、裁判により有罪、無罪が決められます。貸した金を払わないからといって、相手の家に押しかけて行き、勝手に金目のものを持って帰るなどの回収(これを自力教済という)は許されていません。ただ、裁判となると、手続きが厳格なため、時間がかかります。面倒な手続きを弁護士に依頼するとなると費用も馬鹿になりません。そこで、裁判によらない、早くて手続きの簡単な解決方法はないのだろうか、と誰しも考えます。・ADR(裁判外紛争解決手続き)が登場してきたトラブルや事故の大半は、当事者の話合いで解決されています。ただ、相手が話合いに応じなかったり、妥協点が見いだせない場合に、これらの問題を解決してくれる機関が必要となります。すなわち、最終的には裁判によって解決を図ることになりますが、その前に何らかの方法によって解決が図れないものか、ということで、最近になり、よく言われるようになったのが、ADR(裁判外紛争解決手続き)です。たとえば、悪質商法の問題ならば、国民生活センターや消費生活センター、交通事故であれば交通事故紛争処理センターなどがこれに当たります。ADRにも、解決方法によりさまざまなパターンがあります。なお、平成16年6月2日に「総合法律支援法」が公布されました。この法律により「日本司法支援センター(愛称・法テラス)」が設けられ、相談、司法過疎対策、民事扶助、公的刑事弁護、犯罪被害者支援がなされています(12・22ページ参照)。また、紛争解決の新しい制度として労働審判制度(24ページ参照)、筆界特定制度(18ページ参照)が誕生しました。
裁判上の和解には、訴え提起前の和解と訴訟中の和解がある。
2025/09/05
⚫︎裁判上の和解もある裁判所は民事や家事事件について判決により紛争を解決するところだと思っている人も多いかもしれませんが、裁判所での和解による解決をすることができます。裁判上の和解には「訴え提起前の和解」と「訴訟中の和解」とがあります。訴え提起前の和解は、裁判所に和解の申立てをして和解することで、双方が和解内容に合意している場合が多く、裁判所により和解調書を作成してもらえます。この和解調書は判決と同じ効力があります。▶訴え提起前の和解は234ページ参照訴訟中の和解は、文字どおり、訴訟中にお互いが譲歩して和解をすることです。裁判官の勧試勧告による場合もあれば、訴訟中に当事者が訴訟外で話し合って和解(示談)をすることもできます。訴訟になっても、約半分くらいは和解で解決しています。▶訴訟中の和解は238ページ参照前記したとおり裁判外で紛争についての話し合いによる合意ができた場合には、判決が確定するまで訴えを取り下げることができます。ただし、終局判決後に訴えを取消した場合には、同一の訴えをすることができなくなりますので要注意です。 【訴訟事件と非訟事件】民事事件には訴訟事件と非訟事件とがあります。この民事事件と非訟事件の区分については、訴訟事件が裁判所が法令に照らして当事者間の権利・義務について判断する(司法作用)事件であるのに対して、非訟事件は裁判所が自らの裁量に基づき、権利・義務関係を形成する(行政的作用)事件とされています。このため、訴訟事件は紛争当事者が対立する構図であり、公開の法廷で審理し、裁判は判決の確定で終わるのに対して、非訟事件は対立構造が希薄で、審理は非公開、職権探知主義で行われ、裁判は決定・告知によって効力が生じます。訴訟事件の手続きは主に民事訴訟法に定められており、非訟事件は主に非訟事件手続法などに定めがあります。